本について

 「プログラミングでメシが食えるか!?」発売から1週間が過ぎました。おかげさまでまずまずの出だしという情報もいただいております。少しでも読者の方の役に立つような内容があれば幸いです。

 さて、これまでの著書はすべて技術解説書で、サポートページもソースのダウンロードなどで存在の意義があったのですが、本書は読み物ですので、サポートページといってもあまりサポートする内容がないのです。実は出版社の方からは、本書に合わせてブログを立ち上げてみては?と言われたのですが、個人的にブログはあまり良い印象がなく、毎日書き続ける自信もないのでサポートページを作ることにしました。が、目次と正誤表しかないのでは寂しいので、何か書こうと思い、著者からのコメントのページを作ることにしました。

 本書に関係するような、あるいはあまり関係ない内容かもしれませんが、書きたくなったときに書くという勝手なスタイルで細々と続けてみようと思っています。

 今回の内容は「本について」です。最近私の勤務先ではあらためて読書を奨励しています。きっかけは会長が昨年から全社員に何冊か本を配ったことからです。一流の仕事をするためには一流の社会人にならねばならず、そのためには一般常識をしっかり身につけ、歴史を学び、正しい言葉を使い、考える力を養わねばならず、それには読書が何よりも大切、ということでしょう。会長から「祖国とは国語」藤原正彦著を読むことを薦めていただき、この方は数学者なのですが、学校教育での重要性は、一に国語、二に国語、三四がなくて、五に算数(数学)、それ以外は十以下、という意見が書かれていました。人は言葉で物事を考えるので、そのためには国語が何よりも大切、ということです。私は若い頃は何よりも数学だろう、と思っていたのですが、元教師の父からも以前、同じことを言われました。

 だいぶ前から活字離れが大きな問題として取り上げられていますが、本離れももちろんなのですが、学校教育でも、ゆとり教育や英語など他の学科を増やすために国語の授業がどんどん削られているようです。最近の若者(嫌な表現ですが)の会話を聞いているとあまりにも単純な言葉だけで会話をしているように感じます。国語の力がどんどん低下しているのでしょう。仕事でお世話になっている方の娘さんが非常に勉強が良くできるのですが、そのきっかけは、小学校の頃に読書が好きで、図書館に行くのが好きだった、ということのようです。

 私も上の娘が10歳になり、本をどんどん薦めることにしました。できるだけ自分からは読まないような、昔の名作などを薦めています。言葉遣いが古くて難しかったりしますが、それがまた良い頭の刺激になると思っています。娘に本を買って渡す際には必ず私自身が読んでから渡しています。子供に質問されたり、感想を言われた際にきちんと話ができるようにと思っていますが、子供の頃読んだ本でも意外と大人になってから読むと印象が違うのが面白く、私自身も楽しく読んでいます。

 私自身も子供の頃から本をたくさん読んでいました。両親とも本が好きでしたが、特に母は本が好きで、私が高校生位からは自分が読んで良かった小説などをどんどん私に読ませてくれました。歴史的名作ももちろん読みましたが、小説にも考えさせられたり、感動したり、勇気付けられたりするような良書がたくさんあるものです。

 だいぶ長くなりましたが、そろそろ著書に関する話題も書きましょう。皆さんの中で本を書いたことがある方はおそらく非常に割合としては少ないと思いますので、著者が本を出版してからどのような気持ちでいるのかを書いてみましょう。

 最近では本を出版しなくても、ホームページやブログで自分の考えを公開することは可能になっていますが、本は基本的にお金を出して買っていただくという点で大きな違いがあると思っています。ブログなどでも尖がったことを書くと批判の嵐になったりすることもあるようですが、本の場合はお金を出していただいているのでますます気に入らない場合には批判したくなることでしょう。

 技術書では技術的に間違えている場合などは白黒はっきりしていますので、指摘をいただいた場合にも判断がしやすいものです。技術書で批判されることは大抵、解説がわかりにくいという点だと思います。技術的な内容でも解説するのは意外と大変で、どういうレベルの読者を対称にしているかによっても説明の仕方が変わりますし、そもそも文章表現力が足りない場合もあります。書き手の努力が足りない面も多いのですが、読者が本に対してどういう期待をしているかによっても評価が大きく変わると思います。

 私の個人的な意見としては、技術書はまず知りたい情報が十分載っているかどうかがポイントだと思っています。解説の良し悪しも大切ですが、まずは情報があるかないかが重要だと思っています。悩んでいることの解決のヒントになるような情報が得られれば、技術書の目的としてはかなりの割合を果たしているのではないでしょうか。もちろん入門書などでは解説も重要なファクターになるでしょうけれど。

 さて、本書のような読み物は、どう考えても内容がポイントでしょう。読み物にはさまざまな評価対象が存在すると思います。内容が好きか嫌いか、考え方に共感できるかどうか、主張に裏付けあるかどうか、言葉の言い回しが嫌みっぽくないか、などさまざまですが、どれも白黒はっきりしにくく、好き嫌いや考え方の違いで評価が分かれてしまいます。皆さんは本書のようないわゆるHowTo本といいますか、自己啓発本はどういう気持ちで読みますか?

 私自身は、自分の考えと一致した内容があれば自信がつきますし、違う意見であれば、本当にそうだろうか、と考え直すきっかけになりますし、悩んでいる内容のヒントになるような考え方が書かれていれば参考になりますし、大変な苦労が書かれていれば自分の甘さに気づかされますし、頭にくるような内容であれば世の中こういう考えの人もいるのだな、と割り切るような読み方をしています。いずれにしても、著者は一生懸命悩みながら自分の考えをまとめて公開してくれたわけで、気に入るかどうかは別にして、まずは公開してくれたことに感謝する気持ちがあります。特に自分で本を書くようになってからそう思うようになりました。

 本を書いたというと、印税生活をねたまれたりするのですが、実際は印税で生活できるような著者はごくわずかで、私自身も本当にお小遣程度の印税しか入りません。それでもないよりはマシという意見もありますが、本を書く時間を本業で使えばはるかに大きな金額を稼げます。もちろんほとんど自分の時間を削って書いていますので、本業を削っているわけではないのですが、いずれにしても相当の苦労をしていることは確かです。さらに何も考えずに書くのは不可能ですので、内容に関しても相当悩んで書きます。こんな内容を知りたい人がいるだろうか、こんな内容を書いて不愉快になる人はいないだろうか、自分の馬鹿さ加減をさらけ出すことになるだろうか、などマイナス面も悩みますし、こういう内容を伝えてあげれば同じような悩みを抱えている人の役に立てるだろう、この内容を知っていれば私と同じような苦労をしないで先に進めるだろう、この内容をきっかけに何かが変わってくれれば、などプラス面も考えます。

 そんなに苦労して大して印税も入らないのになぜ書くのか?と言われそうですが、書きたくても書くきっかけがない人もいるのに、書くチャンスを与えていただいていて、書く内容に少しでも期待してもらっている私が書かないのは失礼というか卑怯だ、という気持ちもありますし、本業の役に立つこともありますし、書き終えたときの達成感が好きということもありますが、やはり何よりも書きたい事、言いたい事があるからなのです。

 そういう考えで書いていますので、かなり書きたいことをそのまま書いています。おそらく反論も多いことでしょう。しかし、当たり前の当たり障りのない内容を書いてもあまり役に立つ部分がないでしょうし、いろいろな人の意見をまとめたような本を書いても主張がはっきりしなくなってしまうでしょう。編集の方の話では、最近は言いたい事をそのまま書いたような、主張のはっきりした本が意外と良く出ているそうです。私もせっかく読むのなら著者の考えがはっきり書かれているものが好きです。

 著書が少しでも役に立ったようなメールやコメントをいただくと、本当にうれしくなりますし、指摘をいただいた場合は自分の不勉強、考慮不足を反省しますし、何の反響もなければがっかりします。特に本書は私の考えを正直に書いたので、私自身を評価されるような気分です。反響がないよりは批判された方がまだ書いた甲斐がある気もしますが、批判に関して一言。批判は悪いことではなく、間違いを正すという目的ではとても良いことなのです。しかし、悪いとばかり言って何が正しいのかを言わない批判は単なる悪口となる気がしますがいかがでしょうか。まずい点を批判するなら同時に自分の正しいと思っている考えを主張していただけると良いのではと思います。「この本はこんなことを書いているから駄目だ」ではなく、「この本はこんなことを書いているが、自分の考えではそれはこういう根拠により間違えていて、こういう方が正しいと思う」という感じです。何事もそうですが、できない、無理というより、どうすればできるかを論じるべきですし、あの意見はおかしい、というより、こういう意見の方が良いと思う、と主張すべきと思いますが、いかがでしょうか。いずれにしても書き手がどういう背景で書いているのかを把握せずに、局所的に揚げ足を取るようなやり取りがブログなどでも多く見受けられますが、マイナス面ばかりに無駄なエネルギーを使うより、プラスを生むためにエネルギーを使うべきでしょう。幸い私自身がそのような汚い批判を受けたことはないのですが、本のネットショップのカスタマーレビューやたまたま検索で飛んだブログなどで時折身勝手な批判を目にすることがあります。

 まとまりのないコメントになりましたが、読書の大切さ、本に対する気持ち、本を書く側の気持ちなどを書いてみました。本は少なくとも読まないよりは読む方が考えるきっかけになります。著者の考えがある程度のボリュームでじっくり得られるのはやはり現代でも本が一番でしょう。私もますますたくさんの本を読んでさまざまな考え方を元に自分自信のこれからを考え続けていきたいと思っています。

2007.1.22

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from 2007/1/13