コミュニケーションについて

 なかなか仕事が忙しくて、その割に趣味も諦めないのでコメントをかけませんでしたが、本書の売れ行きはかなり良いようで(IT関連では、ですが)、1月13日に発売になってからほぼ1ヶ月、IT関連書籍でトップ3に入る集計もあるようですし、某書店ではIT関連書籍でトップだったという噂も聞いております。アマゾンのコメントなどで批判も厳しいですが、多くの方に読んでいただき、批判でも何でも考えていただけているというのはうれしいものです。

 先日、本書を読んでくださった仙石様からメールをいただきました。多くの点で共感していただいたという感想をいただき、是非お会いしませんかというお誘いをいただきましたので、会社を訪問させていただいて、3時間半という長時間、さまざまな有意義なお話を伺うことができました。仙石様は私と同じ年齢だそうで、Klab株式会社のCTO(最高技術責任者)として活躍されており、私よりはるかに早くからコンピューターに親しみ、某大手メーカーの研究所に勤務され、その後今の会社の設立に参加されたということで、プログラミング技術でも未踏ソフトなどで高い評価を受け、日経Linuxの連載の執筆も続けられており、ご自身のブログの内容からも高い技術力を感じるのですが、CTOとして戦略的なお仕事もしっかり取り組んでいらっしゃる方で、お話させていただいてパワーを分けていただけたような感じです。

 非常に多くの話題を話し合ったのですが、仕事ではコミュニケーションが重要という点で話し合ったことをご紹介しましょう。

 私の考えでは、本書でも書いたように、技術も大事だが、それ以上にコミュニケーション力が大切、という考えがあります。どれだけ腕が一流でも、お客さんの解決したい問題を引き出し、上手に提案し、最適なソリューションを提供するという開発の仕事においてはコミュニケーション力が欠けていては良い仕事はなかなかできないでしょう。コミュニケーション力は開発の仕事だけでなく、社会人として活躍するための必要条件だと思います。

 コミュニケーション力を高めるためには、もともと社交的で上手な人もいますが、一般的にはやはり努力が必要で、場数を踏み、先輩から悪い点を指導してもらい、慣れると共に、自ら上手になろうという努力が必要だと思います。そういう意味では若いうちほど多少の失敗をしてもお客さんに大目に見てもらえるということから、少しでも早くからコミュニケーション力を高めることがポイントで、若いうちからどんどんお客さんとの打ち合わせに参加し、議事録を取ることや、発言の練習を繰り返すことが大切というのが私の考えです。

 仙石様は、コミュニケーション力の重要性は共感いただきましたが、若いうちはまず技術、という意見もおっしゃっていました。コミュニケーション力はある程度年齢が上になってからでも十分身につけられる、という意見です。実際仙石様は8年ほど大手メーカーの研究所に勤務され、コミュニケーションの機会は少なかったそうです。その後会社の設立に参加され、今の仕事に就いてからコミュニケーションの機会が増えたそうですが、確かにお会いしてお話していてなんらコミュニケーション力の不足を感じませんでしたし、それどころか聞くのも話されるのも非常に上手でした。

 若いうちに自分の誇れる技術をしっかり努力して身につけ、それを背景に、たとえば30歳を超えるくらいからコミュニケーションを積極的に始めれば、なんら問題はないのではないかというご意見で、なるほどと思った次第です。コミュニケーションという一つの話題に関してでもこのようにいろいろな方とお話をさせていただくたびにさまざまは考え方に気づかされますし、考え方という面ではまさに人それぞれ、ということで、本書のような技術者としての考え方をまとめたような本は当然共感できない部分も人によってあることでしょう。大切なことは人の意見を聞かないのではなく、出来るだけたくさん聞いた上で、自分はどうすべきかということを自分なりに考えることだと思います。

 さらに先日、お世話になっている専門学校の先生ともお会いして、2時間以上お話させていただきました。専門学校でも年々学生のレベル低下が課題だそうで、レベルというのは学力だけでなく、人間的な部分が特に低下していると嘆いてらっしゃいました。1年生の間に礼儀をはじめとした躾を叩き込み、それから技術、さらに、就職や人生目標の立て方などに進む感じで、育った環境やゆとり教育の影響など、さまざまな要因があるのでしょうけれど、それでも卒業して社会人になればそういう甘えが通用しない世界に入らなければならず、専門学校ではまさに人間教育が最重要課題というような時代だそうです。人間教育を考えてくれる専門学校はまだ良い方で、基本的には学生の主体性に任せる大学ではそういう指導も少ないでしょうから、ますます社会人になる際に困る人が多いことが想像できます。もちろんいつの時代でもトップクラスの一握りは学校とは無関係に自ら考え行動し、自分の道を切り開いていく人がいるものですが、そういう人とそうでない多くの人との差が一段と大きくなっているのが現状のようです。私が本書に書いてあるような、技術者としての目標のようなものを持てれば、技術習得にも熱が入るのでは?とお話しすると、それ以前の問題が多く、そういうレベルになるのは卒業の直前くらいですよ、と言われてしまいました。もちろん、私はそんなことは無い、と、反論される方が一人でも多くいることを祈っていますが・・・。

 いずれにしても、私自身、社会人になるまでは社交的ではなく、知らない方と進んで話をしたり、人前で話をすることなど考えたくも無いタイプでしたが、今では一人でも多くの方とお話をさせていただき、コミュニケーションによって育ててもらっているようなものですし、コミュニケーション無しでは仕事も始まらないような状態なのです。会社にこもってばかりいるような上司では心配ですし、ついていきたくないですよね。お客さんも、情報交換をきちんとしてくれない方に仕事を進んで依頼したくは無いはずです。コミュニケーションは相手があってのものですので難しいのです。何の努力もせずに上手になるものではないと思います。相手に不快感を与えないような身なり、姿勢、表情に気を配り、きちんとした文章を書けるようになり、きちんとした言葉遣いで話を出来るようになり、自分のことばかりでなく、相手の気持ちもきちんと思いやり、気持ちの良いコミュニケーションを出来るような自分を目指して努力を続けることは、あらゆる分野で活躍するための基本となるはずです。相手から気になることを言われていちいち頭にきてムッとしているようでは損なのです。指摘してくれて、気づかせてくれてありがとう、というくらいの謙虚な気持ちで人と接すれば、自らを正してくれうるような指摘を受けられ、また、相手も気持ちよく情報を伝えてくれると思います。もちろん受けるだけでは駄目で、自分の詳しい分野に関しては、押し付けにならないように気を配りながら、わかりやすく説明してあげられるように日ごろから努力しておくことも大切です。

 人生、コミュニケーションがすべて、というくらいではないでしょうか。

2007.2.11

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from 2007/1/13