学歴

 久しぶりに(初めて?)アマゾンで本書を誉めていただく内容のレビューが登場しました。書名で検索するといくつかの方のブログでも多少は読んだ価値があったというような内容もあり、著者としてはとてもうれしいものです。もちろん悪いところは批判していただいた方がありがたいのですが、たまには良い点も書いていただけるとほっとするものです。この一ヶ月くらいでさまざまな評価(直接ご指摘いただいたのはほとんどないのですが)を見させていただいた感じとして、自分として詰めが甘かったな、と反省している点もいくつか見えてきています。

 本書の執筆の経緯は前にもご紹介したのですが、最初に「メシが食えるか」というタイトルが決まっていたのではなく、プログラミングのノウハウをまとめようということで書き始め、その後仕事のノウハウも書きたいということで、プログラマーのHowTo本のような方向に進んだのですが、タイトルが決まったのはほぼ全て書き終えた後で、冷静に考えると「メシが食えるか」ということに対する直接的な回答は書いていないのです。結末を書かずに読者の想像力に任せるというのは昔から物語などでもよく使われるのですが、本書の場合はそういう意図があったというよりは、単に書名が後付で決まったという感じが強く、少々無責任な感じもあり、反省しています。もちろん私としては「メシは食える!」と申し上げたいのですが、いかがでしょうか。

 また、あまり本書の対象といいますか、前提をはっきりさせずに話を進めてしまっているのも、批判的な印象を受けやすい原因なのかとも考えています。本書はどちらかというと組織的な仕事ではなく、個人のスキルを対象に書いている部分がほとんどです。プログラマーとしての活躍をアピールしやすいのは大規模開発よりは、規模は小さくても固有技術にこだわった開発だと考えています。大規模開発ではSEやさらにそれを統括するプロジェクトマネージャーなどのスキルがポイントになってくる気がします。事業的に大規模の方が儲かるとか価値があるとかいう判断は人それぞれだと思いますし、結論は無いようなものだと思います。人によって価値観が違いますので。私は自分自身がプログラマーとして仕事をしてきましたので、プログラマーがやりがいを感じながらメシを食うためにはどうすれば良いのかというのを追い求めてきたと思っています。本書は結果としてそのような前提で書かれていることは間違いないと思いますが、そのあたりをもう少し前置きではっきりさせた方が良かったと考えています。

 私としてはこのような読み物形式の本は初めて書きましたので、勉強不足な面も多く、まだまだご指摘を謙虚に受け止め、勉強していかねばならないと改めて考えている次第です。多くの方に手にしていただき、初版在庫がなくなってしまい、書店によっては在庫切れになってしまっているようですが、まもなく増刷が出来上がるそうです。

「学歴」

 さて、毎回本書に関するコメントと共に、思いついたテーマで少しずつ書いてきていますが、今回は「学歴」に関して考えていることを書いてみようかと思います。

 私自身の学歴は「勉強について」などでも大体暴露しましたが、最終的にはとても自慢できるものではありません。高校以降勉強をしなかったので自業自得なのですが、勉強をして良い大学に行く価値がわからなかったので勉強をしなかったことは間違いありません。親を責めるつもりは無いですし、全面的に後悔しているということでもないのですが、若い方でまだこれから学歴の面でもチャレンジできる方がどれだけこの文章を見ているかは疑問ですが、そういう方のために、私が実際仕事を20年位してみて、学歴に関して感じたことをご紹介してみたいと思います。もちろん人によって考え方も感じ方も違う部分ですので、あくまでも私の個人的な感想として読んでいただければ幸いです。

 大学卒業後、しばらくは学歴に関して何かを感じることはほとんどありませんでした。就職先は中小企業で学閥などがあるわけでもありませんでしたし、社長(現会長)は優秀な大学の博士ですが、特に負い目を感じることもありませんでしたし、仕事をしていて不利に感じることもありませんでした。30歳前後から大手企業さんとのお付き合いが増えてきて、高学歴の方が多い大手企業の社員の方々と仕事をご一緒する機会が増えたのですが、それでもどちらかというと低学歴の我々のメンバーの方が活き活きと活躍していると感じているくらいで、特に学歴に関して不満は感じませんでした。

 30歳後半くらいから、会社全体のことや事業の将来を真剣に考えるようになってきました。参考になるような本などをたくさん読み、いわゆる成功者の話を知ってみると、ひらめきや決断力、行動力など、その人自体がすばらしいと感じることももちろん非常に多かったのですが、冷静に考えてみると実は「人脈」がすばらしい場合も多い気がしてきました。人脈が形成される過程というのはさまざまで、仕事を通じて形成されることも多いのですが、意外と学生時代からの交流なども深いつながりを持ち続けているのではと感じました。古くからの友人とは単なる損得を超えた付き合いがあるのではないかと思います。

 「学歴」で少し後悔するようになったのは「人脈」に関してこのようなことを考えるようになってからです。私は高校はかなりレベルの高い高校でしたので、高校時代のクラスメートには優秀な連中がたくさんいたのですが、高校時代というのはどちらかというと大学への通過点という面が強く、クラスメートはひたすら予備校などの勉強に力を注ぎ、あまり他人との関わりを考える余裕が無かった気がします。大学時代は勉強より友人たちとの交流が増え、飲みに行ったり、一人暮らしの友人の家で夜通し語り合ったり、まさにもうすぐ社会に出る直前に悩みや意見をぶつけ合う時期で、その後の社会人としての行動に一番影響を与える時期だったような気がします。

 私の通っていた大学はお世辞にも優秀な大学ではなく、卒業生の活躍もそれほど目立たず、在学中に起業するような連中もまずいませんでしたし、何をとっても一流という感じはあまりない大学でした。たまたま私が深く付き合っていた連中は、どちらかというと大学をなめていて、自分の力で何かしてやろう、という友人が多く、卒業後はあまり交流も無かったのですが、最近になって情報交換してみると、自分で会社を作って小粒ながらも業界では個性的な活躍をしていたり、海外での経験やいくつかの転職を経て大手で業務改革を担当しているなど、個性的に活躍していることがわかり、それはそれで非常にうれしくなったのですが、一匹狼的な連中ばかりですから「人脈」という面ではお互いあまり有効につながらない感じが今のところしています。さらにお互いの活躍が広まればまた違ってくるかもしれませんが。

 私の知り合いで、技術系の仕事を続けていた方が、その会社で自分のやることはやり遂げた、と、あるとき海外企業の日本の営業拠点のような支社に転職し、営業も経験したいということをおっしゃっていましたが、さらに仕事を続けながら経済の大学院に通い始めた方がいます。もともと非常に勉強熱心な方なのですが、将来、自分のやりたいことに対して自分の時間やお金をどんどんつぎ込むその姿は非常に考えさせられるのですが、「経済」を学びたいという点もポイントだと思っています。

 いわゆるネットビジネスなどで短期間に大儲けした方々の中でかなりの方が経済を学んでいるという気がします。ネットビジネス以外でも、著名な企業の社長などを務めている方は経済を学んできた方が多い気がします。企業は経済の仕組みの中で活動していますので、経済の知識がしっかりしている人のほうが当然成功する道を見極めやすいのでしょうし、自ら会社を経営したいと考えるのでしょう。もちろん単に会社を大きくすれば良いとか、大儲けすればよいというだけが世の中ではありませんので、人それぞれの価値観にしたがって目標もさまざまなのですが、そういう意味での「学歴」もある意味人生を左右するポイントの一つなのかもしれません。

 人にはない技術を追求し、世の中のさまざまな問題を自ら解決しようという方や、人・モノ・金を有効に使い、ビジネス面での成功を追い求める方、事業以外でも、教育や医療など人間的な貢献を目指す方など、人生の目標はさまざまですが、「なぜ勉強する必要があるのか」「学歴は人生にどういう意味があるのか」などが少しでも若いうちに理解できた人ほど自分の理想の道を目指せる気がします。もちろん人生思い通りに行かないことの方が多く、必死に努力しても挫折を経験し、考え方も途中で変わるものです。最近は恵まれた環境で育つ人が多いため、ハングリー精神といいますか、欲が無い若者が多いとも言われています。「今のままで良いじゃないか」と考えているのでしょうけれど、現状維持というのは、何もしないのでは無理なのです。普通に努力してようやく現状維持で、何もしなければどんどん悪い状況に落ちていってしまうのです。そういう現実をしっかり理解しないまま大人になってしまうことはある意味不幸なのではないかと思います。やっぱり親や先生・先輩がそういう話をしてあげなければならないのだと思います。レベルが高い人とどれだけ付き合えるかが人生をかなり左右する気がします。その為にも「学歴」というのは意外と重要で、しかも後からじわじわ効いてくるような気がします。もちろん学歴を跳ね除けて圧倒的な活躍をする方もたくさんいます。が、やっぱりそれなりに苦労がより多い気もします。私も今の状態をもっと早くから知っていればもう少し違う生き方をした気もします。

 まあ、一度しかない人生、やり直しのできない人生ですから、過ぎてしまった自分は修正できません。悪い面も活かすことを考えて、これからのことを必死に考えて努力するしかないのです。しかし、自分の経験や経験をもとに考えたことを若い世代にヒントとして伝えることはできます。歴史や過去の技術というのはそういう意味で重要ですし、本を読むということは、著者が経験したことをもとに考え、伝えたい内容を知ることなのだと思います。

 学歴からもっと広い範囲の話に広がってしまいましたが、これからの選択肢がたくさんある若い方は是非人生の先輩たちの話をたくさん聞き、読み、それらを理解した上で自らの人生を考えてみて欲しいと思います。

2007.2.19

フレームページへ

from 2007/1/13