得意分野

 だいぶ更新の間隔が空いてしまいました。年度末ということで、納品・検収などで仕事が忙しく、さらにプライベートでも子供の卒園式などこの時期はイベントが多くて毎年忙しい時期です。仕事の方は今期は非常に業績が良く、事業部のノルマを大幅に超える成績が達成できそうです。その分メンバーは非常に忙しい状況が続いていますが、勤務先ではボーナスが出来高制なので、部員の皆さんは今から楽しみなことでしょう。どうせやるなら苦労してでもうれしい結果が見えている方が人間やり甲斐を感じるものです。

 さて、本書の方もおかげさまで継続的に出ているそうで、表紙やタイトルが人目を引くという面も大きいと思いますが、多くの方に手にしていただき、読者の方に少しでも役立つ内容があれば幸いです。本書をきっかけにメールをいただいた方とコミュニケーションが取れるのも非常に楽しみなことの一つです。来週には読者の某大学の学生さんとお会いする予定になっています。自信の持てる分野を確立したいということで、すでに書いた内容と重なる部分もある気もしますが、私の最近の考えをご紹介してみたいと思います。

「得意分野」

 実はつい先ほど、勤務先のプリント基板設計部隊のお客さんとお会いして、お話をさせていただいていました。私のホームページを見ていただいているようで、ぜひお話を、ということで、嬉しいことです。その方はハード設計を個人で行っている方で、高速回路に関するノウハウに自信をお持ちということが会話をしていて強く感じられました。誰でもできることでは儲からない、規模の大きい会社や海外に仕事が流れてしまう、ということは、ソフトを専門とする私とも共通する意見で、世の中に必要なのに多くの人が苦手とする分野が狙い目だということで私と意見が一致していました。その方はある会社で回路の問題が発生したのを即座に解決し、その会社から継続的に依頼をいただけるようになったそうで、まさに私がソフトの仕事で大手さんから仕事をいただけるようになったのと同じだと感じました。技術系の仕事の基本は、困っているお客さんを助ける、ということだと思います。人手が足りないで困っているという場合ももちろんあるでしょうけれども、個人的なアピールとしてはやはり技術的に困っていることを解決してあげられるかどうかだと思います。

 お客さんが困っているのを見てから、その分野を勉強・調査していたのではもちろん間に合いませんから、日頃から世の中のニーズを把握し、その上で自分はどの分野で活躍したいかを考えて、情報収集や勉強・実験を積み重ねて、オンリーワンとはいかないまでも、同じレベルの人はそうはいないだろうというレベルまでこだわることが大切です。

 加えて大切なことが、伸ばしたいと思っている分野の、実際の仕事をたくさん経験することです。勉強と仕事では同じ時間取り組んだとしても、密度が大きく違うものです。仕事となると納期や質が求められます。さらに重要なのが、自分の見えている範囲だけでなく、お客さんからの情報です。自分で勝手に得意になった気分でいるのと、実際にお客さんと一緒に仕事に取り組んだ上で、確かに役に立つ技術だ、と確信するのでは、大きな差があるのは当然です。

 ソフトの分野では、基本的にはノートPC1台あれば、あとは自分の力で何でも作り出せる、という良い面があるのですが、テーマが見えているかどうかが大切です。個人で素晴らしいテーマを見出して取り組んでいる方ももちろんたくさんいらっしゃると思いますが、確実なのは新しいことを実現したいと考えているお客さんと一緒にやらせていただくことだと思います。さらにそういう面では大手さんと一緒にやらせていただくメリットが以外と大きいものです。もちろん小さい会社でも先進的なテーマに取り組んでいる会社は非常に多いのですが、それを仕事として社外の人を使って進めるかどうかという面では、協力会社の活用に積極的な大手さんの方がやはり確実という点もあります。問題は大手さんとどうやってお付き合いできるようになるか、です。

 大手さんでも当然のことながら、先進的な技術開発以外の仕事もたくさんあります。仕様がきっちり決まっていて、開発手法なども決まった上で、プログラミング・テストを協力会社に依頼するというのはとても良くあるケースです。最近はそういう開発はオフショア開発を活用するようになってきていますが、派遣社員を大量に集めて進める場合もあります。そういう仕事が悪いということではないのですが、自分自身の技術的得意分野を伸ばすためのノウハウの収集という面では向いていません。大手さんが官公庁や他社からの受託開発を行うような仕事ではなく、大手さん自身が新しい製品を開発するようなプロジェクトに参加できると得るものが多いのです。どうすればそのような仕事に関われるのでしょうか。

 いろいろな意見があると思いますが、私としては、

・日頃から自分の得意分野、目指しているものを、公開しアピールし続ける。

・人脈形成を日ごろから心がけ、自分の目指す分野を伝えておく。

・得意分野を目に見える形でアピールできるように準備しておく。

・これはと思った仕事には、手持ち弁当でも手を出し、食らいつく。

こういったポイントがあると思います。まずは自分がこういうことに取り組んでいて、そういう仕事をやりたがっている、やれば素晴らしい結果を出せる自信がある、ということを公にアピールし、知りあいに繰り返し話をしておくことです。その効果が出て、そういう人を探しているというチャンスが来た場合には、お会いした際に確実にアピールできるように、わかりやすくまとめておくことです。言葉で言うだけでは足りず、サンプルを動かして見せられるようにしたり、資料としてまとめておくことが大切です。

 それでもはじめてのお客さんは、仕事として依頼するかどうかは悩むものです。契約してうまくいかなかったら担当者がつらい立場になるのです。そこで私が良くやる作戦は、手持ち弁当で着手してしまう、です。これならいけそうだ、とお客さんが思ってくれるようなレベルまで、プロトタイプでも調査でも、自分から進めてしまうのです。もちろん大手さんですと下請け法が厳しくなっていますので、そういうのは困るとおっしゃるでしょうけれど、自分から進んで調べるということは問題ないはずです。目処がついた時点で契約の話をすればよいのです。そうなれば他社に持っていかれたりする確率は減りますし、受ける自分も安心して受けられます。仮に話が流れても、それまでの過程で得たノウハウが次に活きるはずですし、そのお客さんにも積極的な行動が焼きつき、次回はまたまっさきに声をかけてくれることでしょう。

 ポイントは、プロトタイプや調査がどれだけスピーディーにできるかです。もたもたしていてはお客さんがあせって、どんどん他を探してしまいます。自分以外にこの分野は無理、という自信があれば良いですが、そうでなければ他より先に目途をつけなくてはなりません。自分の得意分野なのですから、そのくらいはできて当たり前、ですよね?

 実際私はこのやり方で大手さんとお付き合いのきっかけを得てきました。もちろん一番最初に大手さんに会いに行くという部分では人脈がポイントということも多かったですが、大切なのはそういうチャンスを自分に引き寄せること、チャンスが来たら確実に自分に任せてもらえるようにアピールすること、です。技術的なノウハウは短時間で身に付くものではありません。積み重ねが大切です。そうやって積み重ねた技術は、仮に技術進歩で世の中が変化したとしても根本から全く役に立たなくなることはまずありません。何でも平均的にできる、という生き方もありますが、この分野なら**さん、という生き方の方が長い目で見て得をすると思います。

 その仕事が終わったときにお客さんから「あなたに相談してよかった」と言ってもらえることを最大の喜びとして、得意分野を磨いていくのも素敵な生き方ではないでしょうか。

2007.3.20

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from 2007/1/13