若い皆さんへ

 今日は本書を読んでメールをくださった某大学の学生さんが来社してくれ、いろいろとお話をすることができました。専攻は情報処理ではなく別の分野なのですが、その分野の研究にはコンピューターも重要で、大学のプログラミングの授業で良い成績をとるのは簡単なのだが、身についたとは思えないということで、自身が持てるようになるにはどうするのが良いかという相談がメインテーマという感じでした。

 学生時代は実社会で自分の力がどのくらい通用するのかがわからず、学校の勉強で良い成績を出すことがどれだけ役に立つのかと不安を感じ、今のままで良いのだろうかと悩む方が多いと思います。私自身は楽観的な性格のため、大学時代はアルバイトでプログラミングをやっていただけで今思えば自信過剰な状態でしたので、何の迷いもなく学生生活を楽しみましたし、社会人になってからもこれまでご紹介したような経歴ですが、悪い状態のときでも、「今悪いのは自分の能力不足ではなく、自分の能力が世間に知られていないために、儲けることができていないだけだ」と、自分に対してはとても楽観的に考えていました。いずれも今振り返れば若気の至りなのですが、不安があるから努力する、という面もあると思いますので、不安を感じるのが悪いとは思わないながらも、弱気になりすぎて悩んでもしようがないことを考えることで時間や体力を使うのも無駄という感じもします。

 自信を持つのに一番お勧めなのは、なんといっても実際に腕試しをしてみることだと思います。学生の間に実社会で腕を試すとなると、アルバイトが思い浮かびますが、アルバイトには自分のためになるアルバイトと単にお金を得るためのアルバイトの2種類があると思います。もちろんどんな仕事でも社会勉強にならないことはないと思いますが、せっかく時間を使うのであれば、目先のお金より経験を優先させるのが長い目で見て価値があると思います。プログラミングの腕試しをしたければ、プログラミングのアルバイトをやってみるのが一番です。

 私の会社では、卒業生が在籍している学校と良いお付き合いを続けさせていただいていて、毎年インターンシップで企業実習を受け入れています。1ヶ月くらい、会社勤務を経験するのですが、この実習の前後で驚くほど考え方が変わる学生さんをたくさん見てきました。学校でのプログラミングなどコンピューター教育はどちらかというと基礎的な内容を幅広く詰め込むという内容が多いように感じています。資格取得も大きな目的の一つなのですが、基礎が無意味ということは決してありません。しかし、基礎だけうんざりするほど詰め込まれてもせっかくの興味が苦しみになってしまう人が多いような気がしています。私がプログラミングを嫌いになったことがないのは、一度も指導を受けていないからではないかと思っています。やらされるのではなく自分からやったのですから、嫌いになるわけがないのです。その代り基礎が欠如していて苦労した面ももちろんあります。いずれにしても、インターンでプログラミングのプロがどういう人たちで、どういう仕事の仕方をしていて、仕事の内容がどういうものかを知り、経験すると、自分が何をすべきなのかが見えてくるのです。こういう力を伸ばせば仕事で活躍できそうだ、ということがわかると、前述した不安が解消し、自分の目指すものに向かってやる気がわいてくるのです。インターンの1か月の次の3ヶ月くらいで見違えるように技術力・知識・解決力・さらにコミュニケーション力を伸ばす人を何人も見てきました。もちろん短期間に一気に向上する背景には学校でのきちんとした基礎があるからなのですが、見違えるように一人前に成長します。

 良い先輩の経験談を聞き、良いテーマを経験し、自らも積極的にチャレンジすることができるかどうかが重要ですが、少しでも若いうちに気づくかどうかは大きな差になります。学生時代だけではありません。社会人になってからでもより多くの経験をすることで自分の道がしっかり見えてきて、迷いなく進めるようになるのです。

 今日お話しをした学生さんは、本を買って読み、自分の悩みの解決の糸口を見つけ、著者に自らメールを出し、実際に会って話をするという積極性が将来必ず役に立つことだと思います。私のように社会人を長年経験すると見知らぬ人を訪問して話をすることなど抵抗があるどころか楽しみの一つになるのですが、学生時代では自分の未熟さを笑われるのではないかとか、いらぬ心配をして怖くなって行動できないことが多いのではないかと思います。社会人になってからも同様で、新人だから表に出ると失敗して恥をかいたり会社に迷惑をかけるのではないかと、ついつい逃げるような行動に走ってしまいがちです。実際は先輩から見れば、若いからこそ許される失敗も多く、少しでも若いうちにたくさん失敗の経験をしておくことが何よりも確実に成長するポイントと分かっているので、若い人にそういう機会を与えようと必死なのですが、当人は上からの見かたはできるわけもなく、やっぱり怖いものです。それを乗り越えて踏み出せるかどうかが、いつの間にか大きな差になるのです。

 もちろん、相手も神様ではありませんから、いかなる無礼も許されるというわけではなく、最低限の礼儀は必要ですし、謙虚さも大切ですが、自らも頑張って勉強しているという姿勢を見せることも大切です。頑張っている人は応援したくなるものです。他人の力を頼ってばかりいる人はいつの間にか周りに誰もいなくなります。また、暗い印象より明るい印象が良いのは言うまでもありません。でしゃばりすぎても嫌われますが、遠慮しすぎても相手にされなくなります。人付き合いほど微妙で難しいものはないのかもしれませんが、まず若い人は多少粗削りでもやる気にあふれて目が輝いていることが大切です。

 優秀な先輩はアドバイスはしますが、教えてはくれないでしょう。教わったことはなかなか本当に身につかないもので、自分で苦労してでも解決したことが本当に身に着くことを知っているからです。先輩が与えることができるのは「きっかけ」です。これからのために何をするべきかを自分自身で気がつくのはかなり難しいのです。それを先輩からうまく与えてもらい、ひとつずつ解決していき、成長していく様子を見れば先輩もますます良いきっかけを与えてくれるものです。きっかけは多くの場合本人にとっては試練と感じる場合が多いと思いますが、楽をして一流になるというのはまず無理です。周りより少しでも苦労して乗り越えた人が一流になれるのです。若いうちの苦労は買ってでも、と言われますが、まさにその通りで、歳をとってからやり直せない、挽回できない経験というのは意外と多いものです。

 まとまりのない話になってしまいましたが、最近の若い者は・・・という意見は私も少なからず感じているのですが、今日の学生さんや、私の会社にこの4月から加わってくれるメンバーなどを見ていると、全員がそういうわけではなく、昔同様やる気あふれる若者もまだまだいるのだ、と感じさせてくれます。どうせ人生楽ではありません。どうせやるならこだわって、どうせならやり甲斐を感じて仕事を楽しむくらいの気持ちが良いと思いませんか。習い事でも何でもそうですが、できるようになるまでは苦しくてくじけそうになるのですが、乗り越えると楽しいと思えるようになるものです。さらに言うと、その乗り越えようと頑張っていること自体が楽しいのです。若いうちは気力も体力も時間もあります。今が良ければ楽しければという考えではなく、自らの可能性を信じて、目指す分野に打ち込んでみてはいかがでしょうか。目指す分野が見えていなければ、社会に飛び込んでいろいろ経験してみることが良いと思います。自ら行動しなければいつまでたっても自分は変わりません。

2007.3.28

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from 2007/1/13